UC Santa Cruz のGary Glatzmaier によるダイナモ・モデルのセミナーは、聴衆の半分が地球物理、半分が天体物理という感じで、いつもとずいぶん様子が違っていた。セミナーの要点は以下のとおり。
(1)液体核(主に鉄)の対流と地球の回転によって磁場が生成・維持されている。対流に必要な浮力は(あ)液体核の冷却(い)固体核の成長に伴う質量分別(う)マントルへの熱放出からなる。(い)の効果が最近強調されているが、それがすべてではなく、かりに固体核がなかったとしても、弱いながらダイナモが維持される可能性はある。
(2)ダイナモの3次元の数値模型は、観測されている古磁気記録から推察されるような自発的な磁場の反転をシミュレートするなど、質的には見込みがあるが、レイノルズ数、レイリー数、エクマン数などどれをとってみても実際の地球の液体核のパラメータ域からはほど遠く、モデルの成功が正しい理由によるのか、完全にはわからない。
(3)モデル計算が難しいのは、磁場の反転の間隔が10万年とか100万年とか非常に長いため、長時間の計算を強いられることである。(反転そのものはカオス的に起こる。)計算時間を現実的にするには、モデルの分解能を下げる必要がある。球面調和関数にFFTに相当する高速変換がないことも分解能を上げる障害になっている。このため、将来的には、球面調和関数での展開を必要としない有限体積法などが主流となるであろう。
(4)モデル磁場の反転は1000年で終わることもあれば2万年かかることもあり、単一のタイムスケールでははかれない。
(5)地表における磁場ベクトルの一点観測から磁極を特定するのは、理論的にはできそうでも、モデルの磁場を利用して実際にやってみると、極めて不正確な結果しかもたらさない。
(6)地球回転が乱流に及ぼす影響は浮力のエネルギーをスピンのエネルギーに変換することであり、対流が押さえられ、流体が層構造をなすようになる。
かつてシカゴ大学でポスドクをしていたAmala Mahadevanが学科を訪ねてきて、昼に海洋物理のセミナーをやった。Amala一家とは2年前ケンブリッジでもいっしょだったので、やあまた会いましたね、という感じ。彼女の息子と、うちの長女、三女はケンブリッジで同じ小学校に通っていたので、毎朝オフィスにでかける前に学校まで子供を送っていくのが忙しかったことが、懐かしい。(こう考えると、サバティカルの当時の方がよほど規則正しい生活を送っていたなあ。)現在はボストン大学だそうだ。
で、そのセミナーの中身は、海洋の表層の水温とクロロフィルの相関関係について。MODISなどの衛星データで見る限り、両者とも大きいスケールでは海流による移流に制御されているので形状が似ているが、クロロフィルの方はより細かいスケール(数キロから10キロ)での変動を含み、モデル計算による結果、これは海洋中の前線にともなうメソスケールの湧昇流が深層から炭酸イオンの乏しい水を汲み上げる結果、光合成の割合に不均一が生じることが原因とわかった。最近の海水年代の計算といい、トレーサー相互の関係といい、小生達が5年くらい前に成層圏に関して似たような研究をしていたのが、ようやく海洋学でも顧みられるようになってきた感じだ。つまり、成層圏でおこっていることが海洋に到達するのに5年かかるというのが、知識の輸送過程らしい。
今週の「輸送問題セミナー」は二人の古生物学者の話でなかなか面白かった。きのうはDavid Jablonskiが遺伝子流動と種分化の関係について、きょうは新任の助教授Kevin Boyceが植物の葉の生理機能と進化の関係について講義をした。とくにKevinの話は興味深かった。植物は動物と違って細胞壁がしっかりしているので、化石になっても細胞構造がよく保存されており、細胞レベルでの進化のメカニズムの解明が期待されている。古生物学によると、現在見られるような背の高い種子植物は、古生代のオルドビス紀から石炭紀にかけて、それまでのシダ類の植物から急激に進化したとされている。シダ類と種子植物では、葉っぱの生理構造が基本的にことなることが現存種の解析からわかっている。たとえばシダでは比較的太い導管が枝別れしながら水分を葉の先端部分に送っており、葉の成長も先端部に限られているのに対し、種子植物では導管の他に、より細くて抵抗が大きい毛細導管細胞がネットワークを作っており、水輸送はずっと拡散的で葉っぱ全体が成長する。また、背が高くなる種子植物は自らをより堅固に支えるために、木質素(リグニン)が第一導管壁の中にあるのに対し、シダ類ではリグニンはより外側の第二導管壁内にあるのだそうだ。
Kevinの話が面白いと思ったことのひとつは、春に次女のサイエンス・フェアでやった色付きカーネーションに大いに関係しているからである。そのリサーチをした際、最近ハーバード大のグループが導管壁膜中のゲルが膨張収縮することによって吸水ポンプの役割をしているという新説を出していることを学んだが、Kevinによると、種子植物では剛性の高いリグニンが第一導管壁内にあるので、ゲルが膨張収縮するような余地はあまりないはずだ、ということであった。
さて、来週早々テキサス大でセミナーをすることになっているので、そろそろPower Pointを作らなければ。
小学校4年生の次女の算数の宿題を手伝っていたら、四捨五入と概算の単元が出てきた。教科書によると、43 x 58 は43と58をそれぞれ40と60に丸めて、40 x 60 = 2400と概算するのだそうだ。これはまあ、許せる。しかし、1204 x 4 を 1200 x 0と置き換えて、答えは約「0」というのは、どうも気分が悪い。4816 はほとんど 0である、と言っているわけで、これには納得しない生徒もいるのではないか。かりに x + dx を x で、y + dy を y で置き換えたとして、(x + dx)(y + dy) が概算結果の xy とどれくらい異なっているかを調べるために両者の比をとってみると、(x + dx)(y + dy)/(xy) = 1 + (dx/x) + (dy/y) + [dxdy/(xy)]. xもyもゼロでない場合は、dxとdyが十分小さければこの比は1に近い。しかし、xまたはyがゼロのときは、そうはいかない。dxとdyがいくら小さくてもゼロでない以上は、この比は無限大となってしまう。上の例は、x = 1200, dx = 4, y = 0, dy = 4 なのでこの場合に当てはまる。四捨五入してゼロになる数を含むかけ算は、概算すること自体が無意味とも言える。
さらに言うと、たとえば上の例は、たて1204、横4の長方形の面積の計算例であるとしよう。仮にたての長さを半分(602)、横の長さを倍(8)にしたとしても面積は変わらないはずだ。そこで602 x 8 を概算してみると 600 x 10 = 6000 となる。つまり、本来同面積であるべき2つの長方形が、概算することにより片方は6000、もう片方は0という、似ても似つかぬ値になってしまう。これは、明らかに概算の限界を示している。目盛りの幅が10である物差しには、1204 x 4 の長方形の幅は測る事ができないので、もはや「ひも」にしか見えず、面積を失ってしまうというわけだ。この長方形の面積を測るには、物差しの目盛りをもっと細かくしてやる必要がある。
似たようなことが成層圏の大気混合の数値シミュレーションでも起こっている。化学物質の混合比の等値線が風によってひきのばされてひも状になったとき、数値模型の分解能がひもの幅より粗い場合には、等値線のその部分はメッシュから抜け落ちて、情報が失われる。言葉を変えると、粗視化による「混合」がおこる。物理的には、真の混合は分子拡散スケールで起こっているが、数値模型ではそのような小さいスケールまでは分解できないので、粗いメッシュによる概算が必要になる。で、現在考慮中の問題は、分子拡散による混合を粗いメッシュで正しく表現するには、なにをどうすればいいか、ということである。
昨日は疲れて早く寝てしまった。朝起きてGFDの講義の準備ができていないことに気づく。ところがどっこい、ちょうど創立記念日で大学はお休みでした--などという都合のいい話があるわけもなく、ばたばたと荷物をまとめて家内に駅まで送ってもらう。ところが、駅まで来たとたん、こんどは財布を忘れたことに気がついた。寝巻き代わりにはいていた、ポケットに小銭がどっさり入ったジーンズを今朝別のにはきかえてしまったため、ポケットの中もからっぽ。これで大学に行くとひもじい思いをすることになるので、しかたなく、家内にもう一度家まで往復してもらって財布をとってくる。当然電車は行ってしまい、次のは一時間後。これでは愉快なサザエさんというわけにはいかない。かろうじてタダ券があったので、駅前のStarbucksへ行き、ホワイト・チョコレート・モカの特大を飲みながら講義の準備をする。
何回教えても流体力学のある部分は、物理というよりは数学を教えている感じだ。もちろん、数式のもととなっている思考は物理にのっとっているのだけれど、具体的なイメージにいたるまでが偏微分方程式の山なので、最後にほらこれが答えですよと言っても、結局は数式の変型結果であって、なぜそうなるのかということの実感が欠ける。たとえば前にも書いたが、ロスビー波の位相が流れに対して相対的に西に進むことを示すのに、渦度方程式を使うのが常套手段だけれど、渦度方程式の意味については納得し、ロスビー波の分散関係の導出についても納得しても、じゃあなぜ西進なのか、とたずねられた時に、それが答えだからだよ、というのではあまり説得力がない。せめて、東進を仮定すると渦度方程式を満たすことができない、ぐらいのことは言わないとね。そもそも、波の伝播について数学抜きで記述しろというのは、かなりの難題である。
学科の教授すべてに絶望感漂うメールを流したのが功を奏して、Synte Peacockと学科長のDavid Rowleyが代講を引き受けてくれることになった。やはり3連続講師病欠というのは珍しいらしく、パリでサバティカル中のRay Pierrehumbertからすら同情のメールが寄せられた。少しだけ肩の荷が降りた。もちろん、病気になった同僚を本気で責めているわけではありませんよ、念のため。早期の回復を心からお祈りしています。Synteの海洋のエイジ・スペクトルの話は前にも聞いたことがあったが、大学院生用によくこなれた内容になっていて、理解しやすかった。
まったく話は変わるが、以前書いた勧誘電話お断りのプログラムが今月から始動した。これもいろいろと紆余曲折があって、一時は政府がここまで介入するのは憲法違反の可能性ありということで没になりかかっていたのが、土壇場で裁判所からゴーサインが出て、生き返ったのである。結果はおおむね良好のようだ。夕食の時間帯にうっとおしい押し売りの電話がかかってくることはほとんどなくなった。やればできるではないか。政府のやることにもたまにはいいことがあるぞ。
先日干し貝柱について書いたところ、香港に在住のMさんから、「丸ごと食べるなんて、そんな無茶なことをしてはだめです」と御教示のメールをいただきました。一晩水につけてもどしてから使うのが正しい調理法だそうです。それも、ご当地では高級な食材の部類に入るそうで、おかゆなどにちょっとだけまぜて使うだけで味がぐんとよくなるのだとか。Mさんに教わった中華粥のレシピにも、4人前のお粥に貝柱2個と書いてありました。キャラメルよろしく2、3個まとめて口に放りこんでいた小生の食べ方は、全く道をはずしていたと言わざるを得ません。御心配をおかけしました。(しかし、旨いものをちょっとだけ食べる、っていうのは苦手なんだよなあ。普段タコ焼きとかでも、1回に120個ぐらいは作らないと満足できないし…。)それにしても、香港にもこんな駄文の読者がいらっしゃるとは、なんか肩身が狭いです。
金曜日のfaculty lunchは前日ほとんど徹夜に近い状態で、計画推進中の流体力学実験室について、かなり軽い中身のパワーポイントをこしらえて持っていったが、微分方程式がずらずら並ぶ小生の普段の発表よりはずっと受けがよく、複雑な気分。MITのJohn Marshallが電動ろくろをもとに回転台を作っていたという話から、電動ろくろなら小生でも使い方を知っているという、ほとんど何の脈絡もないオチにつなげるあたり、睡眠不足の限界が感じられる発表ではあった。
で、今週からは少しリラックスして仕事ができるかと思ったら、世の中そう甘くはないのでアール。明日、「輸送問題」のセミナーコースで発表を担当することになっていたF教授から、腎臓結石になったらしくてこれから入院するので、すまないが明日の発表はできないというemail。ぐえー。先週の水曜日にはE教授が風邪で声が出なくなり、小生が代打で講義したばかりというのに、まさか、2打席続けて小生が代打というわけにもいくまい。E教授にメールを出して明日先週の埋め合わせをしてくれないかと頼むが、返事がこない。そういえば、ヨーロッパに会議に行くとか言っていたな。面倒じゃーと思っている3時頃、もう一通のメールが届く。差出人を見たとたん、小生には直感的に内容がわかった。同じ講座で明後日の講義を担当することになっているH教授で、先週から体調を崩していたのが肺炎になったそうだ。申し訳ないが水曜日はだれか別の講師を探してくれ、と。
ふぅーん。そうですか。
3連続代講をしろと。
2時間睡眠でかろうじて息をつないでいる小生に。
いいかげんにせいっ! 君たち、プロの教育者だろう。それなら講義の前の健康管理ぐらいきちんとせんかい!!! それとも何かい? 小生のようなカモをかつごうという、プラクティカル・ジョークか、これはっ!?
と、物理学の田崎先生ばりに一喝したくなるほどの、絶妙なタイミングであった。こういうのを、英語ではtriple whammyという。
GFDの講義を終えて、ふえー今週も長い1週間だった、などと肩の力を抜いていたのがまちがいだった。(4講義のうち、2講義は他の教員が担当するのを聞いていればいいはずだったのに、きのうは直前になって講師が風邪でひっくり返って、小生が急きょピンチヒッターでしゃべらなければならなくなったり、きょうはきょうで再び教授会が紛糾したので、とにかくずっと張り詰めていたのだ。)まだ1日あるのだから、気をぬかずさっさと家に帰るべきだった。よろよろと荷物をまとめているところにG教授が来て、「はい、では明日のfaculty lunchの発表をお願いしまーす」と言い渡された時には、正直言って目の前真っ暗、どぅをーしようという気持ちになった。木曜日の危険性をすっかり忘れておった。断ってはならないのがルールなので、「げげ…ああうう。ええと、まあ、ではなんとか。」と歯切れの悪い返事をしたものの、話の準備をするメドは全然立っていない。この調子では、今晩も長丁場になりそうだぜ。
最近、アメリカの他の大学のホームページをいくつか探訪して思ったことをひとつ。大学の教員または研究者が他の大学のホームページに行く場合、同業者に関する情報(連絡先、研究内容、出版物など)を収集する目的のことが多い。そして、大概の場合、「××学科の○○教授」という肩書きで探すのが自然である。したがって、大学のホームページに行ってまず「××学科」のホームを探すわけだが、これが多くの場合以外と簡単でないのだ。というのは、「学科のリスト(Departments)」というリンクが大学のホームページに張られているところは、意外と少数派だからである。(規模の大きい大学程、この傾向がある。)多くの場合、個々の学科はより大きな学部の一部だったりするので、まず学部のホームに行ってそこから学科へのリンクを探さなければならない。あるいは、「学科」という言葉を使わず「学問単位(Academic Units)」というような意味不明瞭なリンクから目的地を探し出さなければならないのだ。しかし、外部からの訪問者にとって、目標の学科がどの学部に属しているかなんてことはどうでもいいことなのであって、トップページから3つも4つもリンクをたどってまだ目的地につかないということほど、いらいらさせられることはない。もちろん、目指す相手の名前がわかっていればトップページで名前の検索をすることも可能だが、中には複雑な名前も多く、綴りを間違えるとうまく働かない。
そこで、小生は最近、大学のホームページのデザインの評価として、トップページから個々の学科のホーム・ページまでのリンクの数を指標としている。リンク2個以下で目的の学科に行ければ合格、3個以上は失格。(ちなみに小生の勤めるシカゴ大学は失格。)失格のホームページのウェブマスターにはemailで苦言を呈することにしている。情報へのアクセスをより簡便にするために、ささやかながら波風を立てようという試みである。効果の程はいかに…。
日本の母からは時々使いみちがよくわからない代物が送られてくる。新潟旅行のお土産だと言って最近送ってくれた、北海道特産の干し貝柱というのもそのひとつだ。干した貝には栄養があるという話は前に聞いたことがある。しかし、パッケージには干貝柱としか表示してなく、料理の具なのか、おつまみの類いなのか、はっきりしないのだ。おつまみにしては、そうとう手強い。おそらくはホタテか巨大なハマグリの貝柱を乾燥したものなのだろう。ひとつひとつは直径が約1.5センチ、高さが1センチ程度と小ぶりの円柱形だが、これが石の如く堅い。口に入れると、ほどよく塩味が効いていて実に旨いのだが、全く歯が立たないのだ。10分ほどしゃぶったあげく、奥歯で強引に噛みしだくと、ものすごく柔軟性のある繊維が口中へふやけてきて、これをくちゃくちゃやっているだけで顎に筋肉痛をきたしてしまう。スルメを10倍くらいしぶとくした感じだ。しゃぶっているだけで、1つぶ2時間は楽にもつだろう。経済的なおやつである。「ひとつぶ300メートル」のグリコに勝るとも劣らない。熱湯にちょっとつけたぐらいではぜんぜんやわらかくならないので、料理の具としてもどうやって使っていいかわからないぞ。というわけで、おせんべとかだと一日でなくなってしまうのが、2週間たってもまだひと袋の半分も減っていない。じっくり楽しんでおります、母上。
さて、先日シカゴ近郊で通勤電車が脱線転覆事故を起こした。しばらく前にも火災で橋桁が燃え落ちるなど、通勤電車も最近ご難続きなことである。脱線した機関車のブラックボックスを解析したところ、脱線時の時速は約100キロだったそうだ。このスピードで軌道変更のためポイントに進入したらしい。本来ポイント上の制限速度が時速15キロというから、こりゃ、脱線転覆しますわな。運行速度V=100キロ/時=27.8メートル/秒、ポイントの曲率半径R=10メートルとすると、遠心加速度V^2/R = 77.1メートル/秒秒であるから、重力加速度の約8倍の勢いで横にふられたことになる。制限時速なら約0.17倍とかそんなもの。それでも中に乗っている人は手すりにつかまらねばならないのだから、いかにすごい力がかかったかがわかる。(もっとも、ポイントにそのようなトルクを支える強度があるとも思えないので、ポイント自体が先に破壊された可能性が高いが。)列車制御室からは、徐行警告の信号が2回送られていたそうだ。運転士が何らかの理由でそれに気がつかなかったか、信号が列車に認知されなかったかのどちらかの可能性が高いという。非常にまれな事故とはいえ、人災(運転士がポイント切り替えに気付いてなかったことは明らか)というのは、あまりうれしくない。事故原因を徹底的に究明すべし。
昼過ぎから地球流体の講義。ひとりがドロップアウトして、残り二人となった受講生を相手に30人収容の教室で話をする。(二人しかいないんだから一番うしろの列に座ってないで、前へ出てこいよ。そのくせ二人ともよく質問をするので、部屋のこっちとむこうで叫びあっているような感じだ。)Fred Zieglerが先学期で引退して彼が教えていた気候学講座がなくなってしまったので、大気や海洋の大循環についての観測事実を教える場を確保するため、少し去年と内容を変えて、理論一辺倒からデータの紹介も交えて話を進めて行く。
講義の準備に追われているうちにいろいろとやり残しの仕事があったことを思い出した。忘れぬうちに書き留めておこう。
*Y氏に頼まれていた共著論文の原稿のクリティーク (締めきり8月31日)
*終了したNSFグラントについての最終報告書 (締めきり9月30日)
*JASの論文のレビュー (締めきり10月5日)
そうこうしているうちに、JASからまた別の論文のレビューの依頼が届く。1日28時間くらい欲しいところだ。
映画のロケがまだ続いていてキャンパスの中が何かとさわがしい。クルーが10何台ものトラックを乗り付けてきて、通りにずらりと駐車しているので交通にも支障が出ているようだ。中庭にはキャストやクルー用に大きな天幕が張られている。雰囲気としては、外部からお客さんが大勢訪れる卒業式の頃にちょっと感じが似ているかな。今年は紅葉が早いのできっときれいな映像が撮れることであろう。そのへんをアンソニー・ホプキンスが歩いているかもしれないと思ってきょろきょろしてみるも、特にそれと思しき人影はなし。別に見かけたからってどうってことはないのだが。(この際、実は小生はミーハーで、大学院の時に取った陶芸のクラスにブルック・シールズがいたことをひそかに誇りにしているなどということは、あえて伏せておこう。長女のミドルネームにブルックのミドルネームを拝借したなどということも。そういえば、彼女も最近お母さんになったのであるなあ。)
「地球物理における輸送問題」は最初の3回の講義を小生が担当し、ラングランジュ対オイラーの決闘、フラックスの謎、箱模型の組み立て、移流拡散の不思議、トレーサーと質量分別の物語などをカバーした。今日からは教授陣による研究内容の紹介。トップバッターは海洋化学のDavid Archer。基本から話をひも解いてくれたのと、小生がやった部分とうまくつながっていたことで、学生にとってもわかりやすかったと思う。
いよいよ今年度のセミナー・シリーズが始まった。金曜日はfaculty lunch、1時半のメイン・セミナー、3時のローカル・セミナーと講義が目白押し。第一回目に相応しく、聞き応えのある話が続いた。
まずfaculty lunchは地球化学のMunir Humayun。地球の層構造の起源、とくに核とマントルの境界について、地球化学的な手法で拘束条件を向上させようという試み。地球上のある場所では、スーパープルームと呼ばれるマグマの上昇流が下部マントルから地殻まで届いていると考えられていて、「ホットスポット」と呼ばれている。ハワイ諸島などがその例である。今までの研究では、ホットスポットで採集された下部マントル起源とおぼしき玄武岩から高い鉛同位体比が観測され、これから下部マントルに高いウラン/鉛比をもつ貯蔵庫があることが示唆されている。この貯蔵庫の存在理由のひとつとしては、プレートテクトニクスにより海洋地殻が沈み込むさいに脱水分解反応を起こして鉛が分別されるというものである。もうひとつの可能性として、マントルから金属核への鉛の選択的な輸送ということが考えられる。そこで、マントルと核の間の物質輸送をさらに詳しく調べる手段として、Munirは高温で生成される火成岩のコマチアイトに含まれる白金属元素の同位体比を用いた解析を試みた。彼によると同位体比の時間変化により輸送率を見積もることができるそうだ。コマチアイトは玄武岩に比べ生成時の記憶状態がずっとよい、との話し。このへんは小生の専門外なので、ふんふんと聞くしかないが。測定にあたっては、彼の切り札である誘導結合プラズマ発光分析計(ICP-MS)が遺憾なく威力を発揮していた。
つづくメイン・セミナーはライス大のJerry Dickens。暁新世から始新生にかけて、海底のプランクトンに含まれているカーボン13の同位体比が急激に減少していることは良く知られているが、この理由についてこれまでは、この時期に火山活動が集中して、地殻から大気へカーボン12を多く含む二酸化炭素が放出されたからだろうというのが支配的な意見だった。しかし、簡単なモデルを使って計算すると、観測されているカーボン13の減少を説明するためには、ピナツボ級の火山を25秒に1回くらい爆発させる必要があり、それはいくらなんでもありそうもない。そこでJerryはモデルの中に含まれていないカーボンの貯蔵庫があると考えた。考えのもとは、フロリダ沖のブレーク・リッジという海嶺から掘り出したサンプルから、極めて高密度のメタンの水和結晶が発見されたことである。ここにはカーボン12がどっさり含まれていた。単純なみつもりによると大気中のカーボン12の推定量である500ギガトンの7パーセントにあたる35ギガトンがこの海嶺に貯えられているというから驚きだ。データが少ないので、メタンの水和結晶が全世界の海底にどう分布しているかは定かでないが、何らかの原因で水温が変わった時に、化学平衡が変わって、海底の水和結晶からカーボン12が解放されることは想像にかたくない。この効果をモデルに組み込んで計算した結果、5度程度の気温の上昇を仮定すると、観測されているようなカーボン13同位体比の減少を再現できることがわかった。モデルだけでなく、実際に海底のコアのサンプルを解析しているところに、説得力を感じさせる。
締めはうちのGidon Eshelによる大気の予報可能性についてのセミナー。60年分にわたる日々の850hPaのジオポテンシャル高度データからEOF位相空間を構築し、その中で軌道が極めて接近した150数例について、その後の軌道の発散率から予報可能性の限界をさぐろうというこころみ。大体9日ぐらいが限度という、常識的な結論ではあったが、実際にこれを多数のデータにもとづいて示した例は少なく、価値ある結論だと思う。ただし、全球にわたるEOFを用いているため、場所による予報可能性の違いははっきりしない。また、150例でサンプリングにどのくらい力学的バイアスがあるのかもいまひとつはっきりしない。明白なアトラクターがあるわけではなさそうだったが、すべてのケースについて9日という予報限界が適当と言うわけではなかろう。たとえば、ブロッキングの始まりなどは、予報がより困難なことが予想される。
新学期早々3時間にわたる教授会で、完全に憔悴した。しかも通常なら月に一回の教授会が、現在何かと議題が多くて、来月にかけて毎週水曜に集まるという。書記である小生の仕事は4倍増だ。やれやれ。
きのうに引き続き「輸送問題」のイントロで拡散についての講義をする。しかし体力切れで、話に切れがないのが自分でしゃべっていてよくわかり、もどかしい。少し睡眠が必要なようだ。
話は全然変わるが、マック関連のソフトとハードの紹介や、製品のテスト結果を載せているマック・ワールドという雑誌がある。ここでは製品の出来具合いやコスト・パフォーマンスをマウス1個(最低)から5個(最高)の5段階評価している。当然といえば当然だが、大多数の製品はマウス3個から4個半あたりの無難な評価をもらっている。5個とか2個以下というのは稀である。であるからして、最近マウス0個というソフトが掲載されているのを見つけたときには驚いた。この特筆すべきソフトというのはこれである。